北大輝「明日への戦い」

日本社会への提言

アイドル業界と従軍慰安婦のシステムは同じだ

 戦争が終わって間もない昭和30〜40年代、兵隊の視点から戦争を描いた「独立愚連隊」「兵隊やくざ」「与太郎戦記」などの戦記映画が数多く作られた。徴兵で軍隊に引っ張られ、中国大陸や東南アジアで敵の攻撃、食糧不足、疫病などの辛酸を舐め、命からがら復員した映画関係者は多かったはずで、戦地の描写はかなり正確と言っていいだろう。

 これらの映画には、日本語のちょっとおかしい従軍慰安婦や日本から来た芸者、料亭や慰安所が必ず登場する。「独立愚連隊」には中国人の従軍慰安婦が出てくるし、「兵隊やくざ」には将校用の「女郎屋」が登場し、主役の大宮(勝新太郎)は将校用の芸者と仲良くなるのが定番だ。何しろ、1作目のキャッチコピーが「起床ラッパは女郎屋で聞いて、喧嘩でなおす二日酔!」なのだから強烈だ。男所帯の軍隊にとって、性欲の処理は将軍、将校から一兵卒に至るまでの重要な関心事だったことをうかがわせる。

 日本軍がインパールサイパン島など、どんな激戦地でも指揮官や参謀、将校用の料亭や兵隊用の慰安所を作り、芸者や従軍慰安婦を連れていたことは様々な研究資料で明らかになっている。兵隊による強姦事件や性病の蔓延を防ぐことなどが目的だ。戦争中、海軍主計将校だった中曽根康弘インドネシアボルネオ島で「土人女を集め慰安所を開設」していたことも明らかになっている。

 極右文化人や歴史勉強をきちんとしていない頭の悪いネトウヨは「従軍慰安婦などいなかった」と言いたがるが、それは「日本軍が」「朝鮮や中国で」「女性を強制連行して」「従軍慰安婦にした」「一次資料がない」だけの話である。そんなヤバイ文書は敗戦時に真っ先に焼却処分したはずで、ほぼ残っていないのも当然だ。ただ、無理やり従軍慰安婦にされた朝鮮や中国の女性たちの証言はあるし、慰安所が日本軍の管理下にあったことを示す資料もある。インドネシアでは、日本軍占領後、残っていたオランダ人の一般女性が強制的に慰安婦にさせられて、戦後、日本軍の責任者が戦犯裁判にかけられた記録も残っているので、日本軍が強制連行した従軍慰安婦は間違いなくいるのである。

 さて、「与太郎戦記」には、主人公(フランキー堺)たちが、上官から「慰安所に連れて行くぞ」と言われて、「やったー」と大喜びする場面がある。次のシーンは夜で、野外に公衆便所のような掘っ建て小屋が10個ほどあり、その小屋の前に、何十人もの兵隊の長い長い行列ができている。(実際に慰安所を経験した美術スタッフが作っているのだから、異様にリアルだ)

 兵隊が一人ずつ小屋の中に入り、行為を済ますと出てくる。フランキー堺がドキドキした表情で生唾を飲み込みながら、一人、また一人と順番が少しずつ前になっていくのを待つシーンが続く。ようやく自分の番が来た、という時に、「匪賊が出た。うちの部隊の隊員は全員出動」と上官から声がかかる。何とも言えず、悔しそうな表情のフランキーの脇を、後ろの男が満面の笑みで、「じゃあ、お先に」と小屋の中に入っていく。

 こういう映画が、昔は日曜日の午後に堂々と日本テレビで放送されていた。子ども心にも、何か異様なものを感じたものである。「慰安所って何」と父親に聞いて、「うるさい」と怒鳴られたのを覚えている。自分も子どもに同じように聞かれたら、怒鳴るしかないだろう。

 あの小屋の中には、日本や朝鮮や中国の若い女性がいて、毎日毎日、何十人もの兵隊を相手に性行為をさせられていたかと思うと、暗澹たる気持ちになる。

 

 そんな映画のことはずっと忘れていた。突然思い出したのは、AKB48が人気になっていた10年ほど前のことだ。CDを買った人がお目当てのアイドルと握手できる「握手会」の光景をテレビで見た時だ。広大な会場で、中にアイドルがいるいくつものテントがあり、その前に若い男性たちが何百メートルも並んでいる。

 「これは従軍慰安婦と同じ光景だ」。慰安所の兵隊たちは、性欲が溜まりに溜まっているため、女性を相手にしても、「二こすりか、三こすりで」あっという間に終了してしまったという。握手会でも、ファンはアイドルと一言か二言、会話を交わしただけで、係員に引き剥がされてしまう。その瞬間のふれあいだけのために、CDを買う。CDに入っている握手券の枚数が多ければ、その分、長く握手していられるので、何十枚とか百枚とかCDを買う者もいる。性欲を商売に変えるうまいやり方だ。

 

 大勢の美少女を集めて、「この中から好みの子を選んで」というのが、秋元康の「おニャン子クラブ」から乃木坂46、日向坂46に至るまでの一貫した商法だが、これは遊郭で、芸者を客の前に並べて、客に好きな相手を選ばせる「顔見せ」の手法と変わらない。新しいグループが出来ると、「お見立て会」というのを開くが、この言葉遣いには下卑た「風俗臭」がプンプンする。

 要するに、今のアイドルにしても、昔の従軍慰安婦にしても、男性の性欲を満たし、「売り物」になっていることには変わりがない。戦争中のインパールでは、最前線で兵隊が食料も無く戦っているのに、高級軍人たちはビルマで毎晩、芸者相手に酒池肉林の宴会を繰り広げていた。慰安所では客の兵隊からもちろん金を取り、経営する業者は大儲けしていた。昔は国家権力のシステムで、今はレコード会社と芸能プロダクションと広告代理店とテレビ局の金儲けのために。

 犠牲になるのは、若い肉体を消費させられる女性たちだ。「お国のためだ」とか「君は最高のアイドルだ」とか、うまいことを言って、女性たちを貪り、金儲けにいそしむ男たちの存在は昔も今も変わらない。